はじめての町にいくには夜になってから到着するのがいい。 灯に照らされた部分だけしか見られないのだからそれはちょっと仮面をつけて入っていくような気分で、事物を穴からしか眺めないことになるが、闇が凝縮してくれたものに眼は集中してそそがれる。翌朝になって日光が無慈悲、過酷にどんな陳腐、凡庸、貧困、悲惨をさらけだしてくれても、白昼そのままである状態に入っていったときよりは、すくなくとも前夜の記憶との一変ぶりにおどろいたり、うんざりしたり、ときにはふきだしたくなったりするものである。 白昼に到着しても夜になって到着しても、遅かれ早かれ、倦怠はくるのだから、ひとかけらでもおどろきのあるほうをとりたい。 by 開高健「夏の闇」
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